2010-09-23

Wとオーズと謎の男

1.
この「風都」という所に来たのは久しぶりだ、前に来た時は、別の仕事で来たんだが。
俺は、ライドベンダーを走らせながらそんな事を考えていた、今回の仕事は、簡単な仕事だ、ただ依頼すれば良い。後はあっちでうまくやるだろう。

しかし、会長も何故あの男のことをあれほど気に掛けているのか、会長の目的のためなら、全て投げ出す覚悟が自分には有るというのに.....。

遠く、「風都タワー」がみえているビリヤードクラブの2階。ここが目的地だ。が、果たして信頼できるのだろうか?

2.
「鳴海探偵事務所」
ここだ、が、なんて派手な看板だ、作った人間のセンスを疑うな。
まあ良い。俺はヘルメットを取ると、そのまま、2階へと上がった。薄暗い廊下、少しカビ臭い。
木製のドアにも「探偵事務所」の看板が出ている。一呼吸置いて、ノックする。
「コンコン」乾いた音が響く。

「どうぞぉ」女の声だ。探偵は男だと聞いていたが...。
ドアを開けた先は、妙に広い部屋だ。部屋の一番奥に、ふんぞり返って、本を読んでいる男が見えた。
あれが、探偵らしい。

「仕事の依頼ですか?」ふっと我に帰ると、目の前に女がいて、思わず後退りした。

「あ、ああ。」なんて返事だ。

「こちらへどうぞ」ドアの脇の小ぢんまりとしたソファーに通された、座るしか無いだろう。

「翔太郎く〜ん」奥に向かって女が呼んだ。
翔太郎と呼ばれた男は、呼んでいた本に栞を挟むと、ゆっくりと身体を起こし立ち上がると、こちらに向かってこれもまたゆっくりと歩いて来た。

探偵の名は、翔太郎と言うのか。

「もっと、テキパキ歩けないの?」女が小言めいたことを言った。

探偵は「あくせくしないのが.....、ハードボイルドさ」
そう言うと、右手の2本の指を振って俺に挨拶した。

3.
俺は、お気に入りのチャンドラーの”The Long Goodbye”を読みながら、今入ってきた男をちらと見た。
隙のない感じだ、照井といい勝負だな。という事は、何らかの訓練を受けていると思って良いだろう。
男が入ってくる前に、バイクの音がしていたから、それに乗って来たんだろう。
他に連れが居るのかどうかは.....解らない。が、まあ、良いだろう。

「翔太郎く〜ん」亜樹子が呼んでいる、ここは一つ、勿体ぶって....みるか。
本に栞をはさみ、ゆっくりと立ち上がる。
男の様子は、変わらない、イライラするでもなく、こちらの様子を見ている。

 「あくせくしないのが.....、ハードボイルドさ」俺はそう言うと、何時もの様に挨拶をした。

4.
「差し支えなければ、お名前を。」

 男は、「後藤 慎太郎」と言った。はっきり物を言う男だ。こう言うヤツに限って肝心なことは一言もしゃべらない。

「で、依頼したい事とは?」

「男を探して欲しい。2,3日前にこの街で見かけたと聞いた」

「....」あえて、「誰に?」とは聞かなかった。

「特徴とか写真とか、有りますか?」

男は、ライダージャケットの内ポケットから封筒を出すと、その中から、一枚の写真を取り出した。
「男の名前は、火野 映司。」

封筒に社名らしき物が見えたが、はっきりとしない。

「ふうん。」ボサボサの髪で、どちらかというと痩せたタイプだ。が、
「写真....写りが悪いですね」

「ああ、それは、海外の新聞記事にたまたま写っていたのを、拡大したからだ」

「...2,3日前にこの風都で?」

「ああ。」

「お宅の会社の社員さん?」

「....そうだ、海外駐在員だった。」

「なる程。」
”だった”か、自分の会社の社員が”だった”で、今は、行方を探してる?
辻褄があわないよ。後藤さん。

まあ、良い。最近仕事も少ないからな、暇つぶしに、受けるか。
「分かりました。探してみますよ。」
「2,3日後にこちらから連絡します。見つかっても、見つからなくても。」

「分かりました、連絡先は...名刺を置いていきます。ただ、連絡先に出るのは自分ではなく里中というものが出ますので。」

「了解。」


男は、「それじゃ、いい結果を期待します。」と言って帰っていった。


 Wとオーズと謎の男(2)

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