2012-03-05

Wとオーズと謎の男(4)

1.

「後藤さん」俺は事務所前で後藤を呼び止めた。
後藤は被ろうとしていたヘルメットをバイクの上に置くと俺の方へ向き直った。
「なにか?」
呼び止めれたのが気に入らなかったのか、訝しげな顔をしている。

「いや。あんたに報告書を渡して、事務所を出た時点で俺の仕事は終わりだ。」
「じゃあ、何が」
「チョット、聞きたいことが有ってね。仕事とは関係なく」
後藤は改めて俺の方へ身体を向けると「手短に頼みたい」と言った。

「んじゃ。1つ目。あんたの会社…鴻上セキュリティーズって言いましたよね。」
「そうだが。」
「昨日、事故の有った工事現場。あそこの工事の元請けってのが『鴻上コンストラクションズ』って言うんですが…」
ここまで言った所で後藤が「関係ない」と一言言った。
「同じ『鴻上』が付いているから関係有ると思ったのかも知れんが、確かに同じグループ企業ではあるが、俺の会社とは何の関係もないよ。」
「…なるほど。じゃあ、あの現場にアンタん所の警備員が居た事は…」
「それは、そうかも知れない。グループ間での連携は当然取るだろうからな。」
 「…分かりました。じゃあ、2つ目。事故の騒ぎで火野映司の行方がまたわからなくなったって事は報告書にも書きましたが」
「ああ、そう書いてあったな。」
「しかし、あんたは調査の継続は依頼しなかった。何故だ?」
「簡単だ、継続しないことは上からの指示だからだ。」
「上からの?」
「そうだ。」
「探していた人間の居場所がまたわからなくなったのに?」
「今も言ったように、『上からの指示』だ、上がどう考えているのかは、俺には分からない。」
「…なるほど…ね」
俺は、考えるフリをした。次に聞くべき事は決めていた、が、ここはチョットした駆け引きだ。

「もう、いいか?」後藤が聞いてきた。時間を気にしているようだ。
「あっっと…。じゃあ、後1つだけ。」
後藤は何も言わなかったが、明らかにイラ付いている。
「昨日の事故。いや、表向きは事故って事になってますがね。実は、ある男が起こした騒ぎだったんですよ。」
「それで?」
「その男は、4日前にあるモノを『貰った』と証言したそうです。そいつは、その時に1つだけ条件を出したそうです。それは、3日後、つまり昨日あの現場で騒ぎを起こして欲しいと言う条件だったそうです。」
「…それで?」
「いや、その依頼者の事…何か知ってるんじゃないかな…とね」
「ふん。馬鹿馬鹿しい。俺がその男の事や、メモリの事を知ってると思ったんだ?」
「ま、探偵の感ってやつですかね。」
「俺は何も知らない。…やることがあるんだ、もういいか?」

「ええ。お手間取らせましたね。」おれが、そう言う間に後藤はヘルメットを被り。例の妙な形のバイクに跨ると、後ろも見ずに走り去って行った。

「後藤さん。あんた、色々と自信が有るようだったが。ま、語るに落ちるとはこのことかね。」
そんな、後藤の後ろ姿を見ながら、俺は誰に言うとも無く言った。

俺は、照井に頼んで事件ではなく、事故であり、当然メモリが関係している事や、容疑者の素性については「調査中」として2,3日伏せてもらうように頼んでおいたのだ。
だから、あの事故にメモリが関係している事は、”関係者”以外知らないはずなのだ。
「ま、今回は大目に見てやるよ。が、次にこの街に変なちょっかい出したら、その時は相手になってやるぜ、仮面ライダーとしてな。」
我ながら、”決まった!”っと思った、その途端…。
「ちょっと、翔太郎くん!」
「うわっ!ビックリした!なんだよ亜樹子!」
「まぁったく。後藤さんの後追っかけて事務所出ていったかと思ったら、こんなとこで…何一人でニヤついてるの?」
「えっっっ。俺…ニヤついてた?」
「うん。思いっきり」
「うん。いや、まあ、そうか。」
「まぁた、なぁにニヤニヤしてんのよ!他の依頼も有るんだから、さっさと事務所に戻って!」
「ああ、分かったよ。」
まったく、ウチの所長は人使いが荒い。


2.

昨日、現場作業が休みだった映司は洗濯をするために、近くのコインランドリーに来ていた。ランドリーに置いてある雑誌を見ながら洗濯が終るのを待っている時だった、外で「ずどーーん」と言う大きな音がしたかと思うと、映司にも分かる程の振動が起こった。
「なんだろう」
映司はそう言いながら、でも、さほど気にも止めずに洗濯が終るのを待った。

15分ほどして洗濯物を袋に入れて現場宿舎へと向かった。
が、向かうに連れ様子がただならない事が分かった。
現場に付く頃には、数台の消防車、救急車。
そして、十数台のパトカーが来ている事が分かった。
映司は、一瞬息が詰まるのを感じたが、気を取り直して人だかりができている方へと向かった。
「すいません。何があったんですか?」
傍らにいた同じ宿舎にいた作業員に声をかけた。
「おお、映ちゃん。いや、俺もなんだか分からねぇんだよ。さっき、飯喰って帰って来たところだから。」
「ああ、そうですか。でも、すごいな。あのフェンスが全部倒れてますよね。」
「そうなんだよ。」
「俺も帰ってくる途中で、なんかでっかい音がしたんで、ビックリしたんだよ。」
別の作業員が言った。
「あ、それ俺も聞きました。けど、こんなになってるとは思わなかったな。」
「だよな。」
ふと、映司が見ると警察のものと思われる車に男が一人押し込まれるのが見えた。
そして、それを見ている赤いジャケットの男も…。
映司は、一瞬ビクリとした。赤いジャケットの男が、映司の方を見たからだ。
いや、そう見えただけなのかも知れない。が、赤いジャケットの男の眼光にただならないものを映司は感じた。


「あの男だな?」と照井が訊いた。
「ん?あーーそうだな。あれが火野映司だ。」と翔太郎は答えた。
「どうする?」
「いや、どうもしない。探していることを知られるなってのが依頼人の要望だ。」
「そうか。」
「ま、取り敢えず。これ以上何も無ければ俺、帰るわ。」
「了解した。」
「あっと。それと一つ頼みたい事が有るんだが。」
「聞ける事と、聞けないことが有るぞ。」
「分かってるって。…実はな…。」


3.

「よいしょっと。」
映司は、ベンチから立ち上がると軽く伸びをした。
「昨日はさんざんだったなぁ。まさか、仕事が無くなるとは思わなかった。」

昨日の事を思い返しながら映司はこれからのことを考えていた。
「取り敢えず、お金はそれなりに有るから、困らないっと。後は、仕事かぁ。この街で、何か探すかなぁ。」

昨日、あの事故の後程なくして現場の総監督が会社のエライ人と一緒に現れ作業員全員を集めた。
「あーー、今回ぃこの様なぁ事故が起こりましたぁ事はぁ誠にぃ遺憾では有りますがぁ、何よりぃ死傷者がぁ出なかった事がぁ何よりでぇ有りますぅ。」
「しかしぃながらぁ、消防、警察等の事故のぉ調査とぉ再開にぃ当たりましてのぉ地盤やぁ施工済みのぉ部分のぉ安全性調査ぁ等をぉ考えますとぉ、皆さんにはぁ大変申し訳ぇ有りませんがぁ、工事のぉ再開はぁ最低でもぉ半年先にぃなりますぅ。」
作業員の間からざわめきと溜息が聴こえた。
映司も「半年先」と聞いて少しがっかりした。
元々、この現場は1年以上仕事が有ると聞いていたからだ。

結局、作業員全員の雇用契約は即日終わり。が、給料だけは2ヶ月分を出してくれた。

どうしようか、そんなことを考えていた映司の耳に「おお。居た居た」という声が聞こえた。
声のした方を見ると、あの現場にいた警備員だった。
「ああ、どうも。…どうしたんですか?」と映司は訊いた。
「いやぁ。もう会えないのかと思ったよ。」
「?」
「いや、映ちゃん。あそこでの仕事無くなったら、行くとこないんだろ?」
「ええ、まあ。」
「だったらさ、ウチの会社に来なよ。」
「え?」
「ここ」そう言って男は着ていた制服の胸のワッペンを指さした。そこには『鴻上セキュリティーズ』と刺繍されていた。
「ああ、警備の…」
「そう、現場によっちゃあさ、半分住み込みみたいなのも有るんだよ」
「え、そうなんですか?」
「そうそう。映ちゃん真面目だから、向いてるとおもうなぁ」
「ああ、そうですか。」
そう言いながら映司は警備員からメモを受け取った。そこには、鴻上セキュリティーズの営業所の住所と電話番号が書かれていた。
「それじゃあ、俺行くわ。」それを見つめる映司に警備員は声をかけた。
「あ、はい。ありがとうございました。」
「いや、いいよ。じゃあ。」
歩いて行く警備員の後ろ姿を見つめながら映司は、「じゃあ、やってみようかな」と一言言った。

映司の居た所からさほど離れていない所に、後藤は居た。
後藤は遠目に見える映司の仕草を見ると、手に持ったトランシーバーの通話ボタンを押し、こう言った。
「後藤です。会長、ターゲットが網にかかりました。」



4.

鴻上光生は、執務室の机でいつものケーキ作りをしていた。
今日、4つ目のケーキだ。が、これは誕生日のケーキではない。
いや、ある意味「誕生日」では有るかも知れないが。

傍らにある、インカムから通信の入った事を知らせるPing音がした。
鴻上が、インカムのスイッチを入れると、
「後藤です。会長、ターゲットが網にかかりました。」

と言った。

それを聴いた鴻上はニヤリとすると、「素晴らしい!」と一言言うと、
「後藤君、プラン通り進めてくれ給え。」
「はい。」と後藤の返答を聞きながら作っていたケーキへの最後の1文字を書き上げた。
そこには、”Welcom To Eiji Hino”
と書かれていた。

「里中くん、ここまではプラン通りだ。この先もそのまま進めてくれたまえ。」
里中と呼ばれた女性は、目の前のホールケーキ(3つ目)を食べながら「分かりました会長。では、火野映司は美術館の方へ回せばよろしいのですね」と答えた。
「その通り!。これで、全ての駒は揃った。後は…グリードの覚醒を待つのみ。」
そう言いながら、鴻上は執務室の窓の外へと目をやった。
「グリードの覚醒…そして、オーズの復活。世界は間もなく、新しい世界を迎える!Happy Birthday!

鴻上は手に持ったグラスを高々と掲げた。


(Wとオーズと謎の男 完)


Wとオーズと謎の男(3)


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