2011-05-24

Wとオーズと謎の男(2)

1.
後藤が帰った後、オレはすぐに行動を起こした。大体、人探しなんてものは有力な情報が有ればさっさと終るもんだ。

が、甘かった。
有力な情報源が揃って「知らない」と言うのだ。
「ホントに知らないのか?」オレは聞いた。
「翔ちゃんに嘘言ってどうするのよ。」と三太。
「そうそう。」とウオッチャマン。
「しかし、依頼人は一週間前に風都で見たと言ってたぜ。」
「うーん。でも。」「ねぇ」と二人顔を見合わせる。
「しょうがない、ここは一つ、探偵の基本に戻るか。」
「どうするの?」
「足で稼ぐのさ」


そう言って、街のあちこちで聞き込みを始めたのが2時間前。
が、手がかりは無かった。
オレは、手にした缶コーヒーを一口飲むと、ベンチから立ち上がって大きく伸びをした。日も陰りはじめている。
「取り敢えず、今日はここまでだな。」

2.
事務所に戻ると照井が居た。

「暇そうだな」
「俺に質問するな。今、ちょっとした事件を追っている、何かお前の方で掴んでないかと思ってね。」
「事件?どんな?」
「知らないの?ビル爆破事件」と亜樹子。
「いつの話だ」
「昨日と今日」
「今日?」
「ああ。14:00頃、第3今村ビルの4,5階が破壊された」
「へぇ。それで?ビル爆破でドーパント担当のお前が何故?」
「爆破のされ方が妙だった。フロアの真ん中が綺麗に丸く…丁度、吹き抜けのように爆破されていた。」
「ふ…ん。」
「それに、爆破物の痕跡が無い。」
「つまり、ドーパントの仕業かも…いや、仕業だと。」
「そうだ。」
「残念ながら、こっちはなんの情報も無いな。昨日は一日犬探し。今日は、一日人探し…だ。」
「そうか、済まなかったな…。ただ、爆破犯の目的が分からないから、巻き込まれないようにお前も気を付けてろ。」
「ああ。サンキュ。」

3.
オレは、昨夜のうちに作っておいたリストを頼りに、ホテル回りをしていた。
大体、1週間も前に見かけられた人間が、他人の目に触れられずに居られる事は難しい。
そう結論付けたオレは、「出歩かなくても不自由しない場所」に絞る事にした。
が、残り5ヶ所となった今、どうもこれも空振りらしいと思えてきた。

リストにチェックを入れて、次に向かおうとした時だった。
ドンッ!
と言う音と共に、空気が震えるのを感じた。すぐ近くだ。
オレは、音のした方へ走りだしていた。そして、バリバリッ、ドドドンと言う音がしたかと思うと地面に激しい揺れを感じた。「かなりヤバイぞ」オレは、走りながらそう呟いた。

現場は騒然としていた。
多くの野次馬が集まり、その向こうにあるビルに穴が空いていた。
穴。ビルの壁面にポッカリと…ありえない様な、綺麗な丸い穴。
「照井が言ってたヤツだ」
オレは直感した。
人混みをかき分け、一番前に出ると現場周辺を見渡した。数人のけが人が居るのを見ると、手近に居た男に救急車を呼ぶように言った。
そして、ビルの穴を見ると、そこに人影が有った。
表情は分からないが、やや長身のちゃらけた身なりの男のようだ。
男はオレの事に気が付いたのか、すぐにビルの中に隠れてしまった。

4.
「照井。確かにあれはドーパントだな。」
「やはり、そう思うか。」
「恐らく、どんな名人芸だって普通の爆薬使ってあんなに綺麗な丸は空けられない。」
「人影を見たと言ったな。」
「ああ。長身の…男。ちゃらけた身なり。刃さんには言っておいたよ。…が、これじゃあ、少なすぎる。見つからないな、きっと。」
「ああ。…左、明日も有ると思うか?」
「…2度有ることは3度有る」
「…」
「目的か?」
「ああ。爆破されたビルのオーナーに聞いても、脅迫状の様なものは何もない。ましてや、オーナー同士の関係性も無い。」
「……デモンストレーション」
「ん?」
「誰かに、あるいは、不特定多数の人間に対して自分の力を誇示している…感じだな。」
「本命は別か。」
「だな。その線が一番濃そうだ。」
照井は、飲みかけていたコーヒーを置くと、「もう一度、洗いなおしてみよう。左、ありがとう」
そう言うと、照井は事務所を出て行った。

5.
オレは今日もホテル回りだ。
昨日のゴタゴタで、回り切れなかった4軒を回りきった。
結果は、予想通り、空振りだ。

「あーもー。どこに居やがんだ、火野映司。」
そう言って、オレはベンチに座り込んだ。
しばらく、ボウッと人通りを眺めていると、一人の男が近づいてきた。
「これ、よろしかったらどうぞ。」そう言って、パンフレットの様なものを手渡してきた。
反射的に手に取ったが、よく見るとマンションのパンフレットだった。
「フッ。オレには縁がないな。」
そう言いながらもオレは、そのパンフレットを開いて見た。
そこにはデカイ文字で『北風都City』と書いてあり、見るからにデカそうな敷地のショッピングモールの完成CGが写っていた。
「へぇ。ショッピングモールの他に、映画館やマンションも…か。」
「はぁ?300戸、5棟?どんだけ、デカイんだ。」
その時、オレの中に引っかかるものが有った。

6.
オレは、北風都Cityの建設現場に居た。
デカイ。想像以上にデカイ。延々と続くフェンス。と、所々にある車両用のゲートの数も、5ヶ所程だ。
そして、フェンスの上に見える大型重機も文字通り"林立"している。

オレは、ゲート近くにマシンを止めると、ゲートの隙間から中を覗いていみた。
人気はない。「ああ、そうか。今日は日曜だ…。」

「なんか用?」不意に男の声がした。
振り向くと、いかつい顔をした警備員が自転車を引いて立っていた。
「ああ。いや、こっちでデカイ工事してるって聞いたんで、観に来たんですよ。」
「あ、そう。でも、今日は日曜で休みだから。作業員も居ないよ。」
「みたいですね。…ここの作業員て何人位居るんですか?」
警備員は訝しげにオレを見ると。「あんた、何者?」と聞いた。
「あ。オレ、左 翔太郎。探偵やってます。」
「探偵?…なんか、事件?」
「いや、ただの人探しですよ。」
「人探しね。まあ、居るかも知れんなぁ。色々と探られたくない物抱えてきてるヤツもいるみたいだし。」
「へぇ。…警備員さんは、ここに常駐なんですか。」
「ああ、そうだよ。俺以外に警備員は5名。常駐ね。」
「作業員は?」
「今は、50人ぐらいかな。」
「50人?ここに?」
「そうだよ、他に市内にアパート借りてそこからの通いも居るよ。それ含めたら、いつも、100人ぐらいにはなるかな。」
「ここで、住み込みって事は、ここから出なくっても生活出来るって事?」
「そうだよ。風呂もあるし、食事は弁当だけど3食有るからね。」
ここだ。オレの感がそう言っている。オレは、警備員に聞いてみた。
「おじさん、知ってたら…で、良いんだけど。ここに、『火野映司』って居ます?」
「火野映司?…ああ、映ちゃんね。」
「え、映ちゃん?」
「そう、1週間ぐらい前に来たんだけど、人当たりが良くって、気がきくし、覚えが早いしで、みんなっから重宝がられてるよ。」
「へぇ。」
「今は…居るかな?…呼んでこようか?」
「あ。いや、いいです。探してること、知られないでくれって、言われてるんで。」
「何で?」
「高校時代の友達が探してるんだけど、サプライズプレゼントがしたいからって。」
「ああ。なるほどね。」
そう、言った警備員の目が、オレの背後に向いた。「おい、あんた。なんか用?」
そして、振り向いたオレの視線の先に居たのは…。





0 件のコメント:

SSH Keyを作成してGitHubなどに接続してみる - Qiita

大事なことなので。 SSH Keyを作成してGitHubなどに接続してみる - Qiita : GitHubやGitLab上のリポジトリへgitコマンドでファイルをpushする時に、上手く接続出来なかったのでSSH Keyの作成からやり直してみました。これはその作業ログなので自分...